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空き家のシェア活用をめぐる、これまでの取り組み

空き家のシェア活用がこれまで全く無秩序に行われて来たのかと言えば、実はそうではありません。たとえばシェア住居の専門メディアでも、独自の掲載基準を設けるなどの自主的な取り組みを進めてきました。ここでは、従来行われてきた取り組みの内容とその経過について紹介します。

ひつじ不動産の続けてきた取り組み

オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産は2005年から運営されている、シェア住居専門のインターネットメディアです。“普通の人のシェア生活”をコンセプトに、ごくありふれた存在として誰もがシェア住居を住まいの選択肢に加える未来の実現をヴィジョンに掲げています。

入居者、事業者、報道メディアなどの各方面に適宜、情報提供を行うほか、「シェア住居白書2008」「100,000 THANKS REPORT(2013)」などの統計データ発表、書籍「東京シェア生活(2010)」監修、、リクルート住宅総研「愛ある賃貸住宅を求めて NYC,London,Paris&TOKYO賃貸住宅生活実態調査」寄稿、「シェア住宅管理士講座(2010〜)」開催など、同分野全体の健全で長期的な発展を促進するための多岐にわたる取り組みを続けてきました。2013年までに、累計で日本全国の550社以上の事業者による1,550物件を超えるシェア住居(シェアハウス)情報を提供する、この分野で最大のメディアに成長しました。

自然発生的に突如勃興したかに見えるシェア住居は、実は、何の秩序もなく歩んできたわけではなく、当社も含め関係者による一定の意識と抑制のもとで拡大してきた分野です。その経緯をあらためて整理し広く共有することは、現在交わされている議論に多少の影響を与えうるのではないかと思います。

実際のところ、8年間にわたるひつじ不動産の数多くの取り組みのほとんどは、その健全性や安全性をいかに担保するかというテーマに関わるものでした。誤解を恐れずに言えば、シェア生活の素晴らしさの啓蒙などは二の次。いかに安全面や居住性の面で一定以上の供給品質を担保し、少なくはない誤解・曲解を解き、極端な表現をすれば分野全体のスラム化を抑止するかということこそが、中心的な課題だったと言っていいでしょう。

なぜ事業体介在型物件専門なのか?

ひつじ不動産は、独自に「事業体介在型」と定義した、事業者が運営管理に介在するシェア住居を専門に紹介しています。事業体介在型に特化しているのは、ある程度の一般化を前提とした場合、他の手法では現実的な健全性や居住性を担保し続けることが事実上困難であるためです。事業体介在型で優れているのは、突き詰めればシェア住居に関する責任の所在が、当事者にとっても社会にとっても明確化される点です。この特質を活かして適切な枠組みの整備を進めれば、実は、市場に横串を刺して一定の健全性の担保を達成することが可能だと考えます。

国土交通省は、いわゆる脱法ハウス問題が起こってからこの数ヶ月で「業者が管理する」と表現している物件について幅広い情報を収集していますが、この情報収集が短期間で容易に進んでいること自体、従来この分野で実現されてきた一定の透明性の証とも言えるでしょう。

空き家のシェア活用に関するスタンス

「空き家のシェア活用」というテーマは、この分野に関わる多くの人々にとって長らく悩みの種でした。2013年9月6日より以前、つまり従来の市場の環境においても、既存のオフィス、倉庫、工場といった居住系でない建物のシェア活用事例では、正式な建築用途変更の手続きを経たものを除いて、一部自治体で明確な是正勧告や警告がなされてきました。しかし、ある程度常識的な範疇で行われている戸建住宅などのシェア活用事例に対して行政から建築基準法上の是正勧告や警告を受けたという話は、耳にしたことがありません。戸建住宅のシェア活用については、行政窓口、建築士、そして学識経験者の間でも見解が分かれていました。

一方で現実的に、戸建住宅などの空き家とシェア住居の相性は抜群に良いのです。よって積極的な規制のない環境ではシェア活用が活発に進展することは明らかですし、また、あくまで常識的範疇で行われる分には、居住性、安全性に大きな問題があるとも言えません。むしろ非常に有効なストック活用であり、空き家問題のソリューションという側面もあります。こうした点を総合的に見て、悩んだ末にある時点で当社の出した結論は、現実的に可能な取り組みとして、実態としての一定の健全性担保を目指すという姿勢でした。こうした結論を導くこととなった背景に、もちろん多くの愛すべき、また意義深く文化的なシェア活用事例の存在が影響していることは付け加えておきます。

媒体の掲載基準によるアプローチ

具体的な取り組みの中心となったのは、独自にシェア住居物件の掲載基準を整備することです。この分野で最も利用されているプラットフォーム、「ひつじ不動産」を通じて、健全性担保に資する掲載基準を少しずつ取り入れることで、安全性、居住性、透明性、借家人保護といった面で一定以上の水準が市場全体に波及することを目指してきました。具体的には、下記のような推移で新規掲載物件の掲載基準の適用を進めています。

2005年
※運営開始時
無窓室に関する規定盛り込み
極端に多人数を収容する相部屋に関する規定盛り込み
2006年
女性入居者の安全担保のため、4名以下の小規模物件に対する男女専用規定盛り込み
2007年
旅館業免許未取得による短期貸しに関する規定盛り込み
2011年
居室(寝室)の床面積を7㎡以上とする規定盛り込み
居室(寝室)の開口部の幅や形状に関する規定盛り込み
住居系以外の建築用途の物件に関する規定盛り込み
相部屋における一人当たりの必要面積に関する規定盛り込み

記載の年度は物件の登録時に配布している掲載規約の文書に明記されたタイミングであり、掲載判断への実務上の織り込みはその以前より実施されているものも含まれています。また、あくまで法的な強制力を伴わない民間事業者の自助努力の範疇であることから、この掲載基準は下記のような観点で設定しています。

  • 適用開始時点で大部分の事業者が現実的に守りやすく、受け入れやすい最低限の基準であること
  • 当社のスタッフが現地訪問するなどし、確認が容易であること
  • シェア住居特有の事情を考慮した上で、入居者の安全性、居住性、借家人保護をできるだけ担保すること
    ※本稿の末尾にて、当社の現在の掲載基準の主要部分を付記

掲載基準を設けた結果、何が起きたか?

このような掲載基準の整備は、間接的ではありますが市場全体に一定の影響を与えてきたと考えています。このような掲載基準を遵守する事業者の供給する物件は、管理や設備などの面でも良質な水準の達成が意識されていることが多いものです。結果としてこうした物件が入居者の満足と高稼働を実現し、その状況がさらに健全性の高い物件の供給増加を促しました。そしてそれが市場全体に対する一般的な信頼を高め、健全な供給に対する需要と機運が増す…という好循環が生まれました。

当社が初めて市場の多くのシェアをカバーした2007-8年ごろに掲載物件全体の25%前後あった7㎡未満の居室(住室)は、2012年には10%程度(現在はゼロ)にまで減少しています。言い換えれば、シェア住居市場で最大のシェアを持つ媒体に掲載されていた物件の居室(寝室)の9割が本稿の最後に記載する基準を満たしていることになります。この基準を満たす物件の大部分は、多くの方が実際に現地を訪れても特別な危険性や問題を感じるものではないでしょう。少なくとも、脱法ハウス報道で目にした極端な映像とは、大きく異なる印象を抱くはずです。

とはいえ、媒体の掲載基準で市場の健全化を促進する手法には好ましい面と、好ましくない面が存在します。好ましい面は、新規性の高いグレーゾーン分野における市場整備という観点で、実態に即した柔軟な取り組みが可能であること。

好ましくない面は、一定のシェアを獲得した媒体の運営者のモラルや専門的知識の度合いにより担保される品質が大きく変わってしまうことです。当社においても、特に創業当初の取り組みの品質には課題も多かったと批判をいただくことがあります。掲載基準を設ける媒体自身が競争に晒されていることもネックです。より甘い基準を設けたり、一切基準を設けないことで差別化をはかる他の媒体に常に脅かされるため、最低限の基準設定に留めて市場全体に関わり続けるか、反対に積極的な基準設定を行い市場のごく一部のみをターゲットとするハイエンド戦略を取るかの2択を迫られることとなります。

取り組みが功を奏し市場の発展が進むと、ある段階で突如としてマスメディアなどで分野全体が喧伝されるようになり、関連媒体、物件の運営事業者ともに新たに続々と登場します。それまでの掲載基準の効果の及ばないチャネルが生まれ、そこで基準外の物件が短期間で増加します。

これは、ここ数年マスメディア上で巻き起こったシェアハウスブームが併せ持っていた難しい一面でした。市場の拡大要因は社会的な風潮の変化として語られ、良質な供給を目指す事業者と具体的な取り組みの背景まで目が向けられることはほとんどなかったのです。

当社の取り組みの経緯を踏まえて

市場の舞台裏で行われてきたこうした取り組みの流れを知ることは、空き家のシェア活用を考える上で、下記のような点で意味を持つと考えています。

  • 空き家のシェア活用事例の多くは、「脱法ハウス」報道を通じて社会的に共有されたような劣悪なものでなく、一定の良質な住環境の担保に努めてきた。脱法ハウス問題に端を発する法規制を適切に評価するためには、劣悪なものとそうでないものの供給割合を念頭に置く必要がある点
  • 500社を超える大部分の事業者が当サイトの掲載基準を認知し、多くはその基準を満たす供給に取り組んできた経緯があり、空き家のシェア活用に自主的なガイドラインが全く存在しなかったとも、それが有効に機能していなかったとも言えない点
  • 実際に広く一定の健全化が実現されてきた経緯から、制度設計次第で空き家のシェア活用が健全に発展する可能性は既に充分に示されていると考えられる点

以上、できる限り適切な論点の提示を心掛け、空き家のシェア活用に関する当社のこれまでの取り組みについて記してきました。既に国内で広く営まれている、多くの愛すべき、また意義ある空き家のシェア活用について、たくさんの方々が適切な情報を把握し、その将来をともに考えていただければ幸いです。

(参考資料)現在のひつじ不動産の掲載基準の主要部分および解説

■入居者同士が十分に交流を育む余地のある屋内の共用設備/スペースが提供されていること

解説:シェア住居の主たる価値は入居者同士の交流機会の創出と位置づけるならば、必要充分な設備が屋内に確保されていることが必要である。充分な設備とは共用のキッチン、ダイニング、リビングなどのスペースを想定している。バスルームやトイレ、玄関や廊下が共用というだけでは認めらず、屋外の共用菜園があるというだけでも認められない。ただし、建物と一体性・連続性のある屋外デッキなどについては現時点で判断を保留しており、今後調整の可能性がある。

■建築基準法上の用途区分が明らかに住居系以外の用途でないと判断できること

解説:掲載時の目視による判断で建築用途について強い疑義のあるものは、原則として確認済証や検査済証など、建築計画概要書などの公的な文書の提出を求めている。

■提供する専有部(居室/寝室)の床面積が7㎡以上であること

解説:東京都建築安全条例にて共同住宅、寄宿舎、下宿に適用される規定のうち、戸建住宅等においても充分に遵守可能な項目として専有部の面積規定を引用した。同条例では東京都内の特殊建築物のみに適用されるものだが、入居者の現代的な生活環境としての品質担保に最低限必要と判断し、新規掲載する日本全国の全物件の、全住室に適用するものとしている。なお、東京都の市街地建築部建築企画課より、(条文に明記されてはいないものの)居住環境の確保という条例の趣旨からすれば、収納部分は含まないで計算すべきであるとの見解を得ており、収納部分はこの7㎡の床面積計算に算入しないこととしている。ただし、専有部にひと通りの水回り設備等を含む共同住宅タイプの建物等では、一般的な商習慣上、水回りなどを全て含む専有部の面積を記載している。

■提供する居室(住室)の床面積の7分の1以上の大きさの開閉可能な窓が設置されており、その内寸の短辺もしくは短径の長さが著しく短くないこと

解説:前段は建築基準法の居室採光の規定に準じている。後段は、2方向避難の義務づけられていない特殊建築物でない建物において、避難路としての現実的な機能性を考慮し、当社にて独自に定めている。なお、特殊建築物でない場合は内窓、天窓、はめ殺し窓などによる開口は面積計算に加味しない。

■室内の床面積に対し極端に大人数の入居者を受け入れているドミトリー(相部屋)を提供していないこと。具体的には、1人あたりの床面積4㎡以上を目安とする

解説:ドミトリーであっても常識的な最低限の広さを確保できない物件については掲載を見送る。4㎡という面積設定は経験に基づく当社独自の規定である。また、開口部(窓)の開閉、採光を妨げないようベッド等の配置についても確認を行う場合がある。

■旅館業法等に規定された行政の認可無く1ヶ月未満の滞在を受け入れていないこと

解説:都内においては1ヶ月未満の契約は旅館業法に抵触するとの見解であり、無認可での旅館営業を行っていると考えられる場合は掲載を見送る。ただし地域により最短期間に関する保健所の見解は異なるため、各地域の法運用に沿った柔軟な対応を行っている。

■提供部屋数が4 部屋(または4 ベッド)以下の物件は、男性専用または女性専用であること

解説:提供部屋数の少ない物件においては、稼働率の低下に伴い容易に2名、3名といった入居者数の状態が生まれる。この際、男性2人—女性1人や、男性1人—女性1人といった住まい方が生じることは、社会通念上および防犯上、少々問題である。特に女性の安心、安全なシェア住居での暮らしを守るために設けている規定である。

■経済性を主たる訴求点とせず、低所得者向け専門との印象を与える可能性が低いと判断できること

解説:ひつじ不動産ではシェア住居の主たる価値は入居者同士の交流機会の創出機能と規定している。広告内容などにおいて経済性を主たる訴求点とする印象を与える可能性が低くないと判断できる場合には、掲載を見送るか、訂正を求めるものとする。

■衛生管理及び入居者コミュニティの管理体制が安全かつ快適に生活可能な水準を充分に満たしていること

解説:現地訪問により、防犯面、防災面、衛生面、生活面などを考慮し一般の入居者が生活を営む上で著しく問題であると考えられる物件、健全なシェア住居市場の発展を著しく妨げると考えられる物件は、掲載を見送る。

■掲載不可能な住室3室(ドミトリーは1 ベッド1 室)以上もしくは全体の4 割以上ないこと

解説:掲載不可能な住室が一定数を超える場合は、物件自体の掲載もお断りする。全体にひつじ不動産で扱うにふさわしい物件ではないという判断の充分な根拠になるという考えからである。これは2011年の居室基準の本格導入時、過渡的な措置として設定されたものである。

Text by 北川大祐

株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表

  • 2005年 株式会社マサキカンパニー入社 ひつじ不動産事業立上げ
  • 2007年 株式会社ひつじインキュベーション・スクエア設立
  • 2008年 統計データ「シェア住居白書2008」発表
  • 2010年 書籍「東京シェア生活(2010)」監修
  • 2013年 統計データ「100,000 THANKS REPORT(2013)」発表

リクルート住宅総研「愛ある賃貸住宅を求めて NYC,London,Paris&TOKYO賃貸住宅生活実態調査」寄稿(2010) 「シェア住宅管理士講座(2010~)」開催 京都府宅地建物取引業協会第2支部の研修会講師(2010) 経済産業省中部経済産業局研究会講師(2011) 全日本不動産協会賃貸管理専門コース研修(2012) 三菱総合研究所主催mifセミナー講師(2012) 日本小売業協会生活者委員会講師(2013) 住宅産業フォーラム21平成25年度第2回フォーラム講師(2013) その他不動産業界等における講演多数

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