COMMENTARY

空き家のシェア活用で議論される「用途変更」。いったい何のこと?

空き家のシェア活用を巡る議論の最大の争点とも言われる、「用途変更」に関する話。でも建築用途って、そもそもなんだろう?なにが問題で、なぜ意見が割れているの?

「用途変更」とは、建築基準法上での用途を変えること

まず、タイトルにある「用途変更」の意味からご説明しましょう。この用途とは、そもそも建築基準法で定められた建築物の用途を指しています。つまり、ここで言われている「用途変更」とは、建築基準法の中で定められたある用途から別の用途へと変更することです。建築物の用途は、大きく分類した場合、たとえば、住宅等、ホテル等、学校等、事務所等、飲食店等があります。

用途変更に当たるかどうかの判断も、建築基準法の中で定められた別の用途になるかどうかを確認して行います。一見異なる用途でも、建築基準法上で類似の用途として扱われるものであれば、その類似の用途の範囲内では用途変更にはなりません。たとえば、劇場と映画館は一見異なるように思われますが、建築基準法では「興行場」という用途で括られた類似の範疇になり、用途変更には当たりません。

住宅についての詳細な用途区分は以下の通りです。

戸建て住宅
地面に接し、1~3階建が主で、独立して一戸として建てられた住宅
共同住宅
2以上の住戸又は住室を有する建築物で、かつ建築物の出入口から住戸の玄関に至る階段、廊下等の共用部分を有するもの
二世帯住宅
台所・風呂・トイレがそれぞれ2以上あり、かつ、「建築物内部で行き来できる」もの
長屋
廊下及び階段等を共用しないで2戸以上の住宅が、連続または重なっているもの

戸建て住宅以外の分類での要点は、「住戸相互において建築物内部での行き来ができる」「
廊下及び階段等の共用があるか」。建築主事などによっては親子で住む住宅であって、内部で行き来できないものは長屋又は共同住宅と判断される場合もあります。

※建築主事:建築基準法に基づいて、建築確認や建築工事完了検査などを行う地方公共団体の職員

戸建て住宅を住宅以外の用途に変更するなら、用途変更になります。共同住宅も1棟まるごとでなくても、1住戸を異なる用途に変更すれば用途変更です。用途変更は内容によって、建築確認申請を必要とする場合があります。用途変更の建築確認申請が必要になるのは、建築基準法6条1項の「別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの」が用途変更によって生じるかどうかで判断されます。寄宿舎は特殊建築物です。

たとえば、戸建て住宅がまるごと寄宿舎に用途変更される場合、その延べ床面積が100㎡を越えなければ原則として建築確認申請は不要で、100㎡を越えれば必要ということになります。

※特殊建築物:建築基準法第二条二項で定められた「学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物」を言う。戸建住宅、事務所などは特殊建築物に含まれない

※建築確認申請:建築物を建築したり、大規模なリフォームや修繕をする場合、事前に提出する書類。その建築計画が法律に沿ったものかどうか、「建築確認申請」を都道府県や市町村の建築確認に関する事務を担当する部署や指定確認検査機関に提出して、建築確認を受けなければならない。これにより建築基準法などの法律に不適合な建築物が建設されるのを防ぐ

※延床面積:建築物の各階の床面積を合計した面積

用途変更におけるコスト面や機能面の問題

戸建て住宅を寄宿舎に用途変更する場合にまず課題になるのは、個室間の間仕切りです(※建築基準法上、個室の定義はなく「居室」として表記されますが当記事では一人が就寝するスペースという意味を含めて個室という言葉で統一しています)。たとえば、隣の個室に火災などの影響が及びにくいような準耐火構造を持つ壁で区切り安全性を確保することが求められます。これは見えている部分だけでなく、天井裏に隠れている部分も同様の仕様でつくらなければならなりません。単純に壁に防火上有効なボード(例:石膏ボード)を張り付けて準耐火構造の壁をつくるのは難しく、天井の一部を壊して工事をする必要があるため、見た目から想像する以上のコストがかかります。共同住宅の1住戸を寄宿舎にする場合でも、個室間の間仕切りに関しては同様です。

この他にも、大掛かりな改修が必要になるケースが想定されるのは「階段」です。住宅では階段の蹴上げ(けあげ:段差)は高さ23cm以下、踏面(ふみづら:ステップ部分)は奥行き15cm以上と定められているのに対して、寄宿舎ではそれぞれ22cm以下、21cm以上となり住宅よりも緩やかな勾配の階段が求められるからです。こうなると階段だけの変更では納まらず、間取りの変更も余儀なくされることが想定されます。 また、たとえば、木造2階建の2階部分に100㎡以上の居室がある場合、階段が2箇所以上必要になります。廊下幅も廊下の片側に部屋がある場合で1.2m、両側に部屋のある場合で1.6mが求められるため、大きな改修が必要になります。ほかにも、共用部への非常用照明の設置などが求められます。

東京都で大きな課題となる「窓先空地」に関する条例

寄宿舎という用途では、東京都の安全条例で「窓先空地」という緊急時の避難のための空地が求められます。これによると道路に面さない各個室に面して、2m幅以上(規模によって変わります)の空地を設け、そこから道路まで2m以上の幅の通路でつなげなければなりません。

こうした潤沢な空地を各個室に面して設けている戸建て住宅は、そう多くないのが現実。この条例の規定が新たにかかると、都内ではかなり高い割合で戸建て住宅から寄宿舎への用途変更は事実上不可能と考えることができます。

共同住宅についてはもともとこの窓先空地の規定がかかっていますが、これはそれぞれの住戸に対して求められているもので、各個室に対してではありません。共同住宅を寄宿舎に用途変更する場合は、各個室に面して窓先空地が求められます。

検査済証がない住宅は、用途変更が困難

実際に用途変更の建築確認申請手続きを行う際に、必ず各自治体の建築主事あるいは民間の指定確認検査機関に提出する書類が建物の検査済証です。これがなければ、建築確認申請はできません。

最近では新築時には完了検査を受けて検査済証を取得するのが常識ですが、以前は必ずしもそうではありませんでした。東京都の検査済証交付率は1999年で約40%で、これ以前はもっと低い状況です。この数字は大規模な建築物も含んでおり、戸建て住宅ではもっと交付率は低くなると予想されます。高度成長期には竣工する建物数が多く到底すべてを検査できないという状況が生じ、当時、行政からの個々への指摘はなかったため、完了検査は受けなくても良いという慣行が生まれたと聞きます。延べ床面積が100㎡以上の住宅を寄宿舎に用途変更する場合には、先に述べた物理的与件もさることながら、検査済証がないという理由で実現が難しくなるケースが相当数に上ると予想されます。

※4号特例:「認定を受けた型式に適合する建築材料を用いる建築物」と「4号建築物で建築士の設計した建築物」については、建築確認申請の審査を簡略化して構わないというもの

家族的なシェアなら「住居」のままという矛盾

また、シェア居住についての定義を混乱させているのが、そこに住む人たちが「家族的かどうか」という判断が絡む点です。

そもそも建築基準法には、家族の定義がありません。そのため、nLDKに「家族n人なら安全」「事業者が入って集めたn人なら危険」「賃借人が友人達とn人で住むのが安全」というような解釈が、建築基準法上では確認できないのです。それを根拠に住宅と寄宿舎の線引きをすることは非常に難しいだけでなく、建築士はそのように使う人を限定して、住宅の安全性を考えるような設計をしていません。特定行政庁もそのような基準で安全性の有無を判断できないはずです。

言い換えれば、シェアという、実態的にすでに広がりつつある新しいライフスタイルに対して、既往の「寄宿舎」という用途で対応することには無理が生じると考えています。

※特定行政庁:建築主事を置く地方公共団体、およびその長のこと。建築の確認申請、違反建築物に対する是正命令などの建築行政全般を司る行政機関

今後の現実的な解決策

戦後からの急速な経済回復に貢献してきた、安全な建築を「つくる」建築基準法に対して、それでつくられた建築ストックを「使う」ためにはどうしていけば良いのでしょうか。ここでは、2つの可能性を提示したいと思います。

1つは、新たな中間用途を追加していくこと。一例として、千葉大学教授の小林秀樹氏が提唱している「特定住宅」があります。これは、200㎡以下・2階以下に規模を限定し、住宅ストックの活用を認めていこうというもの。本来は築基準法自体に新たな建築用途を追加する提言ですが、まずは自治体ごとに条例的に対応しようというものです。条例対応の先例としては、既存住宅を活用したグループホーム整備について、福島県、鳥取県、愛知県(パブリックコメント中)が取り組んでいます。いずれも200㎡以下、2階建て以下という面積、規模の縛りを設けています。

もう一つは「申請-審査」という関係を、「相談-協議」の関係へと改めていくこと。この件は筑波大学客員教授の飯田直彦氏が、厚生労働省2011年度障害者総合福祉推進事業「既存の戸建住宅を活用した小規模グループホーム・ケアホームの防火安全対策の検討」(2012年3月日本グループホーム学会調査研究会)にて、提唱しています。それになぞらえて言えば、今回の通知を「羈束行為(きそくこうい)」(行政庁の行為のうち、自由裁量の余地のない行為)ではなく、「裁量行為(さいりょうこうい)」(行政庁の行為のうち、法規が多義的なため、行政庁に一定範囲の裁量の余地があるもの)として理解して、協議の上、個々の安全性を確保していくことになります。

この協議で、たとえば、「建築行政(+所轄消防)、建築士、シェア住居オーナー、シェア住居事業者」の4者協議を基本として、用途転換に対する実質的な安全の持続的確保を検討してはどうでしょうか。そして、その協議結果はシェア住居居住者とも共有し、防災訓練など安全の持続的確保のための具体的な取り組みや報告義務を設けるようにします。

最後に、既存の住宅ストック活用で大切なのは、関わる人々すべてが自身の安全は「法まかせ」「人まかせ」にしないことです。法や人を疑え、というわけではありません。関わるそれぞれが法と人とを理解することが、結局は、自身の安全性を確保し、個々の住まい方の適切な選択につながっていくと考えます。

※改訂履歴(20131106) 検査済証のない建築について内容を修正しました

Text by 佐々木龍郎

株式会社佐々木設計事務所代表取締役。神奈川大学・京都造形芸術大学・東海大学・東京芸術大学・東京電機大学非常勤講師。千代田区景観アドバイザー。東京建築士会理事。

  • 1987年 東京都立大学(現首都大学東京)工学部建築学科卒業
  • 1989年 同大学院修士課程修了
  • 1992年 同大学院博士課程単位取得退学
  • 1992年~ デザインスタジオ建築設計室
  • 1994年~ 株式会社佐々木設計事務所/現在同代表取締役

本サイト掲載コンテンツの転載について

本サイトに掲載されたコンテンツの著作権は、当該コンテンツの著作者に帰属します。
ただし、以下の条件のもと、商用・非商用を問わず自由に複製・頒布・表示することを認めます。

  • 著作者名(各記事明記の著者およびSHARE ISSUE ARCHIVES)を表示すること
  • 改変しないこと

もしくは、下記のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づき利用することを認めます。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

この作品は クリエイティブ・コモンズ Attribution-NoDerivatives 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
著作者: 佐々木龍郎, SHARE ISSUE ARCHIVES [リーガルコード